寒くなるのは歓迎しないが、長湯好きにはいい時節。烏の行水を体現しているディエゴ、次のシドに続いて最後にマニーはゆったりと入浴を終えバスルームを出た。快い疲労感を味わいながら、脱衣所兼洗面所にて髪を乾かす。
明日は休日だ。それも久方ぶりに、三人の休みが丸一日重なる。
出不精ながらたまには揃ってどこか外へ行くのもいいと、めぼしい目的地にあれこれ考えを巡らせていた。

そうだ。この前シドがロフトベッドの下に机かソファを置きたいと言っていた。家具を見に行くのがいいかもしれない。テレビで紹介されていた新設の大型店、家具だけでなく雑貨の取り揃えも豊富で食事のできる喫茶スペースまでが併置されていて、とても人気があるのだとか、あそこなんか打ってつけだ。
軽くなった頭をなでつけ、ドライヤーを切る。マニーは鼻歌でも歌いたい心地で居間に向かった。

「あ、マニー!やっと出てきたー」

ダイニングテーブルで仲良く隣り合っていた二人へさっそく明日のプランを提案しようとしたのだが、シドに先を越されてしまった。

「はい、ばばぬきするから座って座って〜。ディエゴ、トランプ配って〜」
「ばばぬき?」

促されるまま二人の向かいに腰かけ、シドの笑顔とカードを切っているディエゴのポーカーフェイスとを見比べる。

「急に?ばばぬき?」
「負けた人はペナルティね。勝ち負け決まれば、ジャンケンでもなんでもいいんだけどさ」
「もういいな。…配るぞ」

トランプがテーブルをすべり、手際よく三等分されていく。いよいよ明日の予定についてを話しそびれてしまったが、まぁそれは童心に返った後でもいいかと譲って配られた札をまとめた。
ばばぬきだなんて、何年ぶりだか。
プレイヤーが少ないだけに同位のカードを捨ててしまえば各自の手札はすでにそう多くない。時間をかけず勝敗は決することだろう。
最後にジョーカーをやり取りしたディエゴの、生死でもかかっているかのような真剣さだけが気になった。


根っからこの手の運任せなゲームには弱い。けっきょくおしまいまで手札にジョーカーを残したのはマニーだった。どういうつもりか、シドが取り出してきたのは使用頻度の低いネクタイである。

「はい、じゃあマニーが負けたんならこれで手を縛らせてもらおう」

どんなペナルティ…というより罰ゲームなのだろうか。
しかしこれで、おっしゃあ、などとディエゴがガッツポーズまでして勝利を喜んでいたわけが理解できた。こんなキャラだったか訝って見つめたらきまり悪そうに咳払いまでしてくれたが、つまりこのペナルティとやらがそれだけ嫌だったのだ。
いい予感はしない。けれどこれを拒んだりすれば非難を浴びるのは火を見るより明らか。
いるよねぇこういうやつー、自分が負けたとたんに手の平返して場をしらけさせるやつー、とかなんとか。簡単に想像できてしまう。シドなんかに文句を言われるのは癪だし、最悪ディエゴもいる。そう無茶をさせられることはないだろう。

「前じゃなくて背中で。あ、ディエゴが縛る?」
「だな。貸せ」
「べつにシドでも……。いた?おい、きつすぎないか?」

ほどく時どうするんだこれは、などと考えながらも後から思えばずいぶん気軽に、両の手首を拘束させてしまった。 それだけ今夜は機嫌が良くて、気分が緩みに緩んでいたのだ。

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