出迎えてしまったのだから。
もう意味を成さないことは承知の上で、それでもむくれずにはいられなかった。

「オレばっかり、いっつもハラハラさせられてる」

やっと蛍光灯の光に目が慣れてきた。深夜のリビングは過剰なほどに広々と、閑散としているように感じられる。 シドはエアコンが吐き出す冷気を吸い込み、ぶれそうになる気合を支えながら、いかにも面倒そうに渋面を作るディエゴを睨んだ。

「連絡くらいしたらどうだよ?遅くなるんなら」

ぶん殴ってやりたいと思う。思うだけ。
昔の仲間に連れて行かれたんじゃないかとか、悪い想像ばかりが脳内をぐるぐると駆け巡っていたのだ。
ディエゴは知る由もないだろうが。

「腹減った……マニーは?」
「会社に泊まるって、ちゃんと電話くれたよ」

いい加減にしろ、と上方の眸が言っている。
悪いことをしたのはどちらだと思っているのか。
子供のように、ぐっと力を込めて睨めつけた。

「――…いつまで続ける気だ。くだらねぇ」
「くだらなくなんかない!オレはなぁ……!!」

先に睨み合いを放棄したのはディエゴだった。 息をついて踵を返した背中が、数歩進んだ所で不意にぴたりと止まる。 追いかけようとした勢いを削がれたシドも、慌てて動きを止めた。

「ディエゴ!?急に立ち止まるな!」
「……飯。食いに行くか」
「……は?」
「行くぞ」

ぽかんと口を開けたシドを顧みて、止める間もなくすたすたとディエゴは玄関に向かう。

「おい!こんな時間から?食うもんならうちにだって――」
「シド」

真率な声色。

「いいから。付き合え」

図らずも驚いて言葉を切ったシドへ、ぼそりと言って、ディエゴはまたふいと前方を向いた。

「…おーい。ディエゴー。謝るなら謝るで、ちゃんとごめんって言わなきゃあ」
「調子に乗るな」

外はまさに熱帯夜だ。何か冷たいものを奢ってもらおう、終夜営業しているファミリーレストランの
メニューを頭の中で捲りながら、にまりとシドは口角を上げた。