「ただいま」
「なんだ、傘持ってなかったのか?」

出迎えるなりディエゴは玄関に漂う雨の匂いに顔を顰めて、手にしたタオルを目の前でびしょびしょになっているマンフレッド――マニーへと投げ渡した。
柔らかいチョコレート色の髪から、ぽたりぽたりと雫が伝っては落ちている。

「いや、一応折りたたみを持ってはいたんだが。鞄とこれを守るので手一杯だった」

真っ白なタオルを頭に乗せてマニーがコートを脱ぐと、そこから隠すように抱えられた紙製の箱が現れた。

「ケーキ?珍しいな」
「いや、まぁ、偶にはいいだろう?」
「おっかえりマニー!今日はご馳走だぞー!!」

微笑みながら差し出された箱を受け取りその中を覗いたディエゴの背後で、必要以上に大きな声を放った人物は確認するまでもない。ばたばたとキッチンから出てくるなり勢いよくマニーに抱きついたシドを呆れたように見下ろして、ディエゴは怪訝そうに片眉を上げた。

「ご馳走?何でだよ」
「何で?ったく、これだからアンタは。今日はなぁ、オレたちが出会ってちょうど一年目の、大事な大事な記念日なんだぞ?」
「お、お前……!覚えてたのか!?」

突然真っ赤になってシドに詰め寄ったマニーに向け、ディエゴは唇の片端を上げた。

「……なるほどな」
「いや、ちっ、違う!私は!たまたま気が向いて――」
「うわディエゴ、それケーキ!?記念日を忘れずケーキまで買ってきてくれるなんて、さっすがマニー!」
「違うと言ってるだろ!!」

目敏くディエゴがぶら下げている箱に気付いて表情を輝かせたシドの頭を、マニーは思い切り叩いた。

「い、いってぇぇ〜…」
「素直じゃねぇな、あいつも」

どすどすと浴室に向かう広い背中を見送って、ディエゴとシドは顔を見合わせ苦笑した。