降り続いていた寒雨は明け方糸のような細雨に変わり、空は清々しい青さを取り戻そうとしている。久しぶりの冬晴れだ。リビングの窓を開け放ち、シドは深く息を吸う。

「さむっ…でも、いーい天気」

空気は清涼な味がする。ありふれたものだが、だからこそ晴れの休日はすばらしい。上向かせた鼻の頭にひとひら風花が着地した。
そろそろ起き出していい時間なのに、マニーもディエゴも未だ一階に顔を出さない。
せっかく晴れてんのに。不満げに呟いたシドはたっぷり水を入れたヤカンを弱火にかけて、足早に階段を駆け上がる。
階下に増して明るい二階。マニーの部屋は人の出入りがあったらしく、既にドアが開いていた。

「なんだ。もう起きてたんだ?」

だったらさっさと降りてこいよまったく。文句を言いつつ中を覗いて、驚いた。
ベッドの上、安らかに寝息を立てているのはマニー。ベッド脇にもたれかかり、睡眠には不向きな体勢をものともしないで寝ているのはディエゴ。

「……何がどうなってこうなったんだろ」

考えてみれば三人そろって朝食を食べられるのも久しぶりだ。二人の寝顔は安心しきっているようで、おかしいくらいシドには子供じみて見えた。

「朝めしができたら起こすからねー…」

囁くように忠告しつつディエゴには毛布をかけてやり、そっと二階を後にする。 キッチンにあふれる澄んだ日ざしをまぶたに当てて、ぐっといっぱいに背すじを伸ばした。
もうすぐお湯が沸く。そしたらまずはココアでも飲んで、いつもより凝った朝めしをつくろう。腕によりをかけて。ゆっくり。