月と星が清かな光を放っている。空気の澄んだいい夜だ。
常緑樹の枝に尻尾を巻きつけた弟と娘の寝姿を、和やかにエリーは見つめた。

「きょうだいみたいね。こうやって眠ってるの」
「きょうだいじゃなくてピーチの叔父だろう。こいつらは」

がっしりしたその樹の根元でマニーは体を休めている。義弟ふたりを見上げた顔つきは苦い。
叔父として姪を監督するどころか、先日はいっしょになってサンタクロース探しになど出かけた。一番おとなになってほしいのはシドで、だからシドを叱りつけたが、マニーとしてはクラッシュとエディにももう少ししっかりしてもらいたいようだ。

「ねえ、マニーもああして眠ってみたら?」

夫のそばに戻り、エリーは彼をなだめるつもりで提案してみる。

「枝にぶら下がってか?おいおい。できないよ私には」
「できるわよ。あなた、プロポーズのときやってみせてくれたじゃない。ああして」
「エリーっ!いいんじゃないかな!?そーゆーことは!忘れても!」

ばっと起きあがったマニーはどうして慌てているのか。まさか恥ずかしがっているのだろうか。
理解し難かったがあまり興奮して大声を出させてもいけない。遊び疲れてぐっすり寝ているお子様たちの、安眠妨害になってしまう。

「忘れるわけないでしょ。けどわかったわ」

鼻をぱたと揺らしておく。夫はまだ落ちつかない様だ。

「う、うん……。そそそ、そうだエリー。きみだって、逆さまになって眠らなくなったよな」
「わたし?」

ゆったり身を伏せたエリーはまばたきした。

「初めて見たときは驚いたもんだけど。やっぱりマンモスは地に足をつけてないとなあ」

マニーは安心したように笑う。
フクロネズミと睦まじいことを咎める気などないが、自身のアイデンティティは確立させておいてもらいたい――彼の心中はきっとそんなところだ。エリーはいささか冷めた瞳をする。

「マンモスになったから枝にぶら下がるのをやめたんじゃないわよ?子供のころからの習慣だし、ああやって眠るのに慣れてるもの」
「そうなのか?じゃあどうして」

こうやって地面にいるんだ。一緒になってから、エリーが木の枝を寝床に使うことはなかったはずなのだが――。
きょとんとする夫。考えていることは手に取るようにわかる。エリーは静かにおしえてやった。

「そんなの決まってる。マニーがいるなら、マニーの近くで眠りたいからよ。それだけ。だから枝にはぶら下がらないの」
「……え……」

返事に困り果てているらしいマニーの首に、エリーは頭をくっつけた。こうしていると温かい。安心する。条件反射のようなものですぐにうとうとしかけたとき、ぼそっとしたつぶやきが聞こえた。

「…………無粋なこと訊いた、かな」
「……ええ。あなたときどきデリカシーに欠けるわよね」

かわいそうだとは思ったけれど、夢うつつで言ってしまった。寄り添った体躯が硬直する。やはりかわいそうなことをしたようだ。
でももっと正直に言うなら、そんなふうににぶくて不器用なマニーが嫌いじゃない。
朝の挨拶といっしょにそれもおしえてあげよう、考えながらエリーは眠りに落ちていく。一晩マニーは苦悶することになるのだが、もちろん彼女の本望ではなかった。