あまりにも遅かったのだが、ようやくシドは事態をきちんと飲みこんだ。
痛ましくも傷つけあう、二人のいさかいの要因を。


「――やめてぇ!!」

だしぬけに大声を上げ、マニーたちのちょうど中間距離へ躍り出たシド。想定外の行動に、相対する両人は目を丸くした。

「やめて!二人とも!オイラのために争わないで!」
「――……は?」

気の抜けた息をもらしたのはマニーとディエゴのどちらが先であったろう。あるいは同時だったのかもしれない。
シドは神妙にまぶたを閉じ、胸の前で両手を握り、なにやら弱々しく首をふる。ついでに内またで立っている。

「たしかにオレってばイケメンで、だけどちょっぴりカワイイし?好きになっちゃうのも無理ないよ!?」
「……」
「でも!それで争うのはよくない!シドさまの素晴らしさは、みんなが仲よく共有すべきでっ」
「…………」
「オレが魅力的すぎるのもいけないんだよな……。うん、わかってる。罪な男だよな。オレ。ほんとにごめん!二人とも!」
「………………」

すっかり自己陶酔してシドは喋り立てている。身振り手振り、今にも涙さえ流しかねない熱の入りようだ。
ワンマンショーを傍観していたディエゴはやがて、立つ気力もつっこむ気力も湧かないらしいマニーへ歩み寄っていった。

「……マニー。悪かった。熱くなっちまって」

ディエゴの手を借り、彼はどうにか起き上がる。あまり顔色がよくないのも無理ないだろう。

「いや。おかげで目が覚めたような気もする」
「……なにやってたんだろうな俺たちは」
「ああ……。まったくだ」

多大な疲労感に、両者ともぐったり息を吐いた。

「あ、あれ?なんだ二人とも、仲直りしたの!?よかったぁ!」

へにゃと笑ったシドにはかけらもシリアス味がない。
ばかばかしくも可笑しくなってきて、ディエゴは小さく喉を鳴らす。横目に見やったマニーの呆れ顔も、決して刺々しくはなかった。

「あんたが正解か。俺たちはこのままでいいらしい」
「このままが、いいんだよ」

傷心か安心か、複雑極まる気分だったが少なくとも穏やかな生活は戻ってきそうだ。


そんな騒動の後。
マニーたち以上に疲れきった様子でため息するシドの姿が、彼らの知らないところで見られたとか。見られなかったとか。