誘ってるのかという問いかけをかろうじて喉元で抑えながら、ディエゴは憮然とした面持ちで天井を睨む。
後ろで立ち止まり、ソファにどっかりと腰を下ろしている自分を無言で注視し出した(振り向かなくとも容易に判る)マニー――そこまでは別に構わないのだが、それが急に頭を撫でてきたりしたものだから堪らない。

「……おい」

軽く髪を引っ張られる刺激がまた焦らされているようで、上ずるのを防ぐために発した声は必要以上に不満げに、随分と低く響いてしまう。

「お前の髪は硬くていいな」

幸か不幸かディエゴの声色には全く頓着せずに金色の髪をいじり続けながら、のんびりとマニーは心から羨ましそうに、いっそ感心したように、そう言った。
確かにマニーの髪質は細く柔らかで、ディエゴのそれとは正反対に近い。
そんなもん適当に水でもつけときゃいいだろう、とその程度にしか寝癖に手こずらされたことのないディエゴをマニーが羨むのも、無理はないかも知れなかった。

「私のもこうだったら楽だろうなあ」

冗談じゃない、口には出さずにディエゴは思う。
柔らかな茶色と相まってその髪が織り成す優しげな雰囲気はマニーという人物そのもののようで、当然それはディエゴにとって愛すべきものだというのに。

「羨ましがられるようなもんじゃない」

背もたれに後頭部を乗せるようにして背後に立つマニーを見上げれば、ようやく髪に触れていた手は離れていく。ささやかな仕返しのつもりでディエゴはマニーの頭を触り返してやった。

「そんなことないさ。昔はこれが結構なコンプレックスだった」

くしゃりと掌を支配する感触もくすぐったそうに苦笑する表情もあまりに無防備で、ディエゴは毎度毎度自分を襲う疑問――こいつわざとやってるんじゃないだろうな――を否定することで内心精一杯になる。
だからこそ、離れていくディエゴの手を名残惜しそうに見送るその視線に気付く者はなく、彼らの距離が縮まることもまたない、変化のないありふれた春の日だけが、いつものようにそこには取り残されるのだった。