きっかり三発ずつ敵兵士の頭部に銃弾を打ち込んでいたクラッシュが、何事か唇を動かした。

「え?なに?聞こえない」

横で画面を眺めていたエディは兄の顔間近まで耳を寄せる。やかましくて通常の声量ではとても会話ができない、夕刻のゲームセンターは繁盛していた。数種の音楽ゲームが奏でるメロディーやカーレースゲームのあたりで騒ぐ男子学生たちの喚声。兄たちがプレイしているガンシューティングゲームの筐体、そのスピーカーだってプレイヤーの真ん前にあるのだ。

「メールきた。誰からか、見て」

そう話しているあいだもクラッシュは手にするハンドガンのトリガーを引き続けている。心得てエディが兄の制服から引き出した携帯電話。バイブレーションはすでに止まり、黄色いランプが点滅していた。

「あ…エリーだ」
「じゃあ読んで。返事もしといてー」

勝手知ったる片割れの携帯。よどみなくエディは新着メールを開き、短い文面を読むなり両目を丸くする。

「クラッシュ!なぁクラッシュ!」
「んー?」
「うちにな、バックが来てるって!」
「うそっ!?」

1P側のガンコントローラーが初めてブローバックする動きを止めた。クラッシュは踏みこんでいたペダルから片足を退け、小さな画面を覗きこむ。

「うわ、久しぶりじゃん!…早く帰ってきなさい?」
「言われなくてもそうするのにな」
「おい!クラッシュー!!」

ゲームそっちのけで色めきだつ双子に、2P側である右隣から叫び声が割って入った。

「うるさっ!でかい声で名前呼ぶなよシド!!」
「そっちも声でかい!つーか隠れっぱなしでいるなよ戦えよ時間無い!一人じゃ無理!」

このガンシューティングゲームにおいてペダルから足を離す意味すなわち弾薬の再補充と、画面内のキャラクターが物陰に身を隠す動作。そしてプレイヤーが二人いる場合はその分敵の耐久値にも補整がかかる――と、ハイスコアを狙えるほどこのゲームをやり慣れている少年が、知らないわけもないだろうに。画面上部に表示された制限時間は、すでに秒読み段階だ。

「いいんだよ、もう帰るから。バックがうちに来てるんだって!」
「バックが?」

鞄を持ち上げたクラッシュにシドが顔を向けたところで制限時間が過ぎた。あっけなく表示されるコンティニュー画面。

「はぁ…。オレ、今日はそっち行くのよそうかなぁ」

しょんぼりと銃をホルダーに戻し、シドは憂鬱な顔をする。

「へ、なんで?」
「べつに来なくてもいいけどさ」
「だってすっげー誰かさんが機嫌悪くなんじゃん。あ、クラッシュひどいね」

しかしシドが小脇に抱えたクマのぬいぐるみはピーチにあげるためのものだ。居候していた当時はさんざん邪魔だと言われたクレーンゲームの景品も、彼女のおかげで今やちょっとした贈り物として歓迎される。
一人の夕飯は味気ない。どちらにしろ、本気で呟いたものではなかった。

「マニーは妬いてんだよ」
「うん、バックがカッコイイから」

ぶらぶら電子音をかき分け出口へ進む双子の後ろで、シドは首を傾げた。

「あのおっちゃんが?かっこいい?」
「ちょっとディエゴにも似てるよな」
「…そお?わっかんねー……」

シドにしてみれば共通点を見つけるほうが難しく思われる二人だが、確かにディエゴとバックは気が合うようだ。双子の言うように似通った部分はあるのかもしれない。

「あのカッコよさがわかんないなんてな」
「だめだよなー。シドもマニーも」

それにつけてもクラッシュとエディはバック贔屓が過ぎる。結婚前のようにチクチク嫌味を投げつけたりすることは無くなったらしいとはいえ、この小舅たちがマニーを手放しで褒めるのもまず聞いたことはなく、それはなんだかちょっと気の毒じゃないかとシドは思う。

「――オレはもっと優しくしてあげなきゃ、かわいそうかな?」

抱えたクマの頭がこくんと揺れる。
同情してやってもそれを当人は喜ぶどころか、嘆き悲しむかもしれないが。