「シドニーただいまぁ!あたしに会えなくてさびしかったでしょ!?お菓子も買ってきたからねー!」 「さびしくねぇ!最後会ったの一週間前くらいじゃんかお菓子とかいいからべつに!」 椅子から立ち上がる隙も与えず、シルビアは力いっぱい幼なじみを両腕に収めた。抱きついたというか捕獲したというか。カーディガンに包まれた豊満なバストに、すっぽりシドの顔が埋まる。これも普段の彼にならば垂涎もののシチュエーションだろうが、相変わらずそんな幸せは生命の危機と隣り合わせであるらしい。 「やめてやってほしいな…窒息する前に……」 彼女を家に入れた後ろめたさもある。ぼそりと願ってみるがしかし恐怖心が勝って、積極的に止めに入るまでは至らない。受け取った手土産をぶら下げたままマニーが途方に暮れていると、再び玄関の開く音がした。 「おかえりディエゴ」 「ただいま。マニー、…げ」 あからさまな反応。嫌ってはいないようだがディエゴもシルビアを苦手としている。人間の判別は好きか興味も無いか、そんな二択が基本の男だ。その分類は珍しい。 「止めないとヤバそうだな。絞め殺されるぞ」 「ああ……まぁでも。あれで死ねるなら、男として本望なんじゃないか?」 「ふうん。マニーはああやって死にたいんだ」 鈴を転がすような、しかし底冷えのするような返事。明らかにディエゴのものではない。聞き違えるはずはないけれど聞き違いであってほしかった。 マニーはぎこちなく背後へ、錆びついてしまった首を回す。 「そうよね。あなたも男のひとだもんね。おっきい方がいいわよね?当たり前よね」 確かにディエゴはそこにいた。気まずそうに。その隣で、麗しく微笑む恋人がいた。 「ち、ちが、エリー、今のは」 「でもわたし、マニーは人を体の一部で見たりしないって信じてた」 どうしてここに、ってそりゃあディエゴが入れたのだろう。それならそう言ってくれ、ってそりゃあ言うつもりだったのだろう。 優先せざるを得ない話題がリビングにあっただけで。 絶対零度の視線を打ち払うようにマニーはがしりと真正面から、エリーの両肩へ手を置いた。 「違う。誤解だ」 誠意をこめ、きっぱり断言する。 エリーは何も言わないが大きな瞳はいくらかの熱っぽさを帯びた。釈明の機は与えてもらえるらしい。 「さっきのは一般論だ。つましいサイズを好む奇特と言うか、物好きなやつもいる。大きければいいものじゃないだろう、たしかに大部分の男はそっちを好むかもしれないが。私はそう思ってない。つまり大事なのは、」 「悪かったわね!!?つましくてっっ!!!」 肝心の部分を待たず、家中にエリーの怒声がこだました。 「……?」 きょとんとして、目をつり上げる彼女を見下ろす。いつの間にやらシルビアまでシドから体を離し、こちらの成り行きを見守っていた。 「わたし、帰ります。おじゃましました」 「え、え?!」 来て早々玄関にUターンするエリーを追いかけたマニーの腕を、ディエゴはつかんで引きとめる。 「追うな。これ以上続けたら最悪の事態も免れなくなるぞ」 「は?」 「マニー…あれフォローのつもり?全力で墓穴掘ってたよ」 「そうね。シャベルとかスコップとかじゃなくて、ブルドーザーでって感じだったわ」 頷き合うシドとシルビア。こんな時だけ息を揃えないでほしかった。 |