なにはともあれ。オレが強制もとい発案をして、ハロウィンには本格的に仮装をしようってことになった。ハロウィンだから。ちゃんと準備してるかチェックすると言っておいたら、二人ともそれらしいものを用意してきたみたいだ。こう素直だとすごく助かる。 「じゃーお披露目開始ね!オイラ一番!」 手を挙げて宣言して、袋からフランケンシュタインのお面、かぼちゃのマスク、かぼちゃのランプ、吸血鬼風マントを取り出す。予想通りに二人は変な顔をした。 「当てよっか。どうしてこんなたくさん、って思ってる?」 「思ってる。各自用意しとけって話しだったよな?」 「俺たちの分もあるならそう言えよ」 「マニーたちの分じゃないよ。みんなオレの」 予想通り、二人はアホかこいつ、みたいな顔になる。 「この中から一つに絞れなくって。だったら全部使えばいいじゃん?途中でお色直しすればいいじゃん?」 「…結婚式と勘違いしてないか?」 「好きにさせとけよマニー。次は俺な」 毎度毎度きっちりツッコんでくれるマニーを見習ってほしい。 マントを肩にかけてみせるオレを華麗にスルーしつつ、自分の仮装グッズを取り出すディエゴ。 黒い眼帯で片目を覆って、広いつばの左右が反り返った、これまた真っ黒い帽子を深めにかぶった。帽子の前面には白いドクロマークがくっついている。 「海賊か〜……ちょっとさ、かっこつけすぎじゃねえ?」 「オチ担当はお前に任せるよ」 誰がオチだよ。キザっぽくつばを指先で押し上げて、ディエゴは口角で笑った。もしかしなくても結構気に入ってるんじゃんか。確かに似合ってはいる。今は首から下が普段着だから惜しいけど、服を揃えれば相当いい雰囲気になりそうだ。 「で、最後マニーね!さっきから気になってたんだよそれ。なに?」 感心した目つきでディエゴを眺めていたマニー。手元にあるのは真っ白い服だか布だか。 「ああ。これをな」 ばさりと広げられたのは服じゃない、やっぱり無地の白くておっきな布一枚だった。 「こう、かぶる」 自前でやったんだろう。真ん中あたりに小さな穴が二つ開けられていて、その穴ぼこからマニーの目が覗く。 こうでもしないと前見えないもんなぁ。 「うん」 「それで?」 「で?終わりだが」 布地に邪魔され少々こもったマニーの返事に、一瞬リビングがしーんとなった。耳が痛いくらい。 「…え、どういう仮装?」 「どういうって、い、いるだろ!こういうの!」 布をかぶったまま両手を横にばたばたさせる大人一名。腰から下は丸見えなんだけどどうするんだよそれ。かわいそうなくらいダサい。っていうかもう真面目にやってくれてるとは思えない。 「…………。なめてんの?」 「な、!?」 「落ち着けシド…目が据わってるぞお前」 だって「本格的に」をあれだけ強調したのだオレは。それなのにこのザマなんて、ちょっと許せないものがある。 割って入ったディエゴに肩を叩かれた。 「マニー。こいつに退屈だのつまんないだの言われてるからだろ?だから今回は笑いを取りにきてんだろ、精一杯。な?」 「……いや。オチ担当に志願するつもりは無かった」 ディエゴの笑顔が引きつった。どん底までリビングの空気が悪くなる。そりゃあそうだ。マニーに限ってそんな、すべりすぎて面白い、を狙うような小器用さ、あるはずないのだ。 ともあれこういう気まずい沈黙は大の苦手なので、オレはあきらめることにした。 「…まぁね。引き立て役だと思えばいっか」 「誰が!誰の引き立て役だ!?言わせておけば……調子に乗るなよシド!」 「だってそれ超まぬけなんだもん!笑いを取るっていうか、笑われはするよ絶対。いいじゃん外からは顔見えないんだし、いて、ちょ、逆ギレよくない!」 「逆じゃない。断じて逆じゃない!!」 そうは言うけど自覚は出てきたんだろう、布を放り捨てたマニーの耳を赤くしているのは怒りだけじゃあない、と思いたい。 |