とろりとした黄色とくっきりした白のコントラストを皿に滑らせ、ディエゴは唇の片端を上げた。

「上手いもんだろ?」

こちらは憮然とした面持ちのマニーは渋々といった様子でこっくり頷く。
シンクわきの皿には熱の通しすぎでかちかちになった目玉焼きのなりそこないが、無残に横たわっている。模範のようなディエゴのそれとは雲泥の差だ。

「お前は大抵のことはそつ無くこなすもんだと思ってたよ」

それがまさか卵のひとつも満足に焼けないとは。恥じ入っている様子がまたおかしくて肩を揺らしていると、マニーは失敗作を手ずからごみ入れに捨ててしまう。

「はは…おい、捨てなくてもいいだろ」
「お前がいつまでもしつこいからだ」

一瞥をくれてからコーヒーを淹れにかかる背中。たしかに共同より分担したほうが作業効率はいい、ちょうどトーストも焼き上がった。休日のブランチとしてはつましすぎる嫌いのあるメニューだがシド不在時、食事はこの程度で済まされるのが常だった。

「悪い。でもな、俺はお前がうらやましい」

さすがに付け合わせが目玉焼きだけでは侘しいだろう。フライパンにベーコンを敷きつつ言えば、マニーは眉をひそめて手を休める。

「うらやましい?」
「作れないってことは、今まで近くに作ってくれる人間がいたってことだからな」

それはその時々によって母親であったり恋人であったり妻であったりしたのだろう。
心から信じ、頼れるひと。心から信じられ、頼られるひと。マニーにとってはごく身近なもの、ディエゴにはひどく縁遠かったもののひとつだ。
ぱちぱちと眼下で油が弾ける。
まめに自炊をするような性格ではないしシドのように誰かのために料理をするという発想もなかったから、凝ったものは作れない。けれどこの程度は生きていく上で、できるようにならざるを得ないことだった。

「ほら、冷めないうちに食おう…マニー?」

フォローのつもりが、喋りすぎたらしい。
仕上がったベーコンエッグを手に顧みたマニーは、先ほど危なっかしい所作で卵を割った際と同じ目つきでこちらを見ていた。憐れみを向けられたくない、相手と対等でありたいと望むディエゴにはかえって辛いことだ。 ためらいがちに紡がれんとしているのは労いの言葉か励ましの言葉か――身構えた彼にかけられたのは、けれど予測したのとはまったく違う言葉。

「ディエゴ。しばらく、待ってくれるか」

…待つ?言葉にはせず首を傾げて問えば、マニーはするりと中空へ視線を外す。目を合わせなくなるのは羞恥心をやり過ごそうとしている(らしい)折、しばしば認められる彼の癖だ。

「その…練習しておくから。今度は私が、お前のために作ってやる」

実直な語気。それは些細で質朴で、とても大切な約束になった。

* * * * *

シドとスクラットは最近営業(笑)に回っているようだし他にも2の冒頭とか短編のシドがキャンプの引率に行ってる間とか、マニーとディエゴは結構ふたりきりでいることも多いんだろうことを思うとわくわくします。