「ディエゴ。これ、貰い物だけど譲ってやるから食べろ」

二月十五日を目前にして。マニーに小さな紙袋を差し出された。
俺の嗜好は知っているだろうに、昨日のやりとりを負け惜しみだとでも思ってるのか?

「これはビターチョコらしいから、お前でも気に入るかと思って」

突っ返そうとした矢先、言い訳じみた台詞に先手を打たれ――それで八割方合点が行った。

「俺がもらっていいのか」
「ああ。さすがに侘しいだろう、せっかくのバレンタインに収穫二つじゃ」

取り出した小箱はそれなりの重量感を手のひらに伝えてくる。
受け取る姿勢を見せたとたん、緊張を醸し出していたマニーの表情はゆるんだ。
素直じゃない、しかし判りやすいやつ。笑いを堪え、袋を覗くポーズを見せた。

「そうでもないけどよ……。ん?なぁおい、レシートが入ってるぞ」
「うそっ!?」
「ああ。嘘」

もちろんチョコレート以外のものは入っていなかった。情けなく慌てふためいた男の前で、空の袋をひっくり返す。

「ぇ…な、……カマかけたつもりか?」
「確認しただけだ。お前が貰い物を横流しするはずない」

そう、まずはそこからだ。律儀なこいつが贈られたものを箱も開けずに他人へ譲り渡すなど、ありえない。

「わざわざ買ってきてくれたんだろ?」

包装を解きながら訊ねる。返答はないが、マニーの赤らんだ顔が肯定を如実に示していた。
仰々しく現れたチョコは飾りけのないブロック型。ココアパウダーをまぶされたそれは、口に入れるともどかしく溶けていく。たしかにカカオの含有量が多いらしい。食道に張りつくようなしつこい甘みは無く、代わりに洋酒の香りとすっきりしたほろ苦さが舌の上に残った。

「いける」
「……そりゃよかった」

渋っ面は外所を向く。まんざらでもなさそうに。