「にじゅいちにじゅに…現在戦利品は二十三個〜っと」

バレンタイン前夜。帰宅するなりシドは持っていた紙袋の中身をリビングでぶちまけ、見せびらかすように数え始めた。色とりどりのラッピングに占有されたローテーブル。イブにしてはまずまずの収穫を満足げに眺め、同じく帰宅したばかりのマニーへ声をかける。

「マニーは?何個もらった?」
「いくつかな。今日は八か九、くらいか」

言いつつ鞄から一抱え、マニーも様々に包装されたチョコレートを取り出しシドの戦利品の脇へ置いた。

「うん、九個。ほー。ディエゴは?」

向かいの一人がけソファに腰を落ち着けているにも関わらず、全くシドの挙動に興味を示さなかったディエゴ。話を振られ、面倒そうに口を開く。

「二」
「……に?」
「……それ」

訊ねたシドとやりとりを聞いたマニーが、そろって気まずく言葉を失くす。本人だけは不審げに眉をひそめた。

「ああ、エリーとシルビアから。……何だその目は」
「え?あぁはは、意外だと思ってな」
「かわいそうなディエゴ…!分けてあげよっか?」
「いらねえ」

もっとも彼自身が意図して人付き合いを絶っているのだから無理もない。ディエゴは甘いものを好まないこともあり、この件に限れば同情する必要はなさそうだった。

「つーかさぁ、ちょっと二人ともモテなすぎっ!オイラを見習えば?」

チョコの山を前に胸を張ってシドが言うと、冷ややかな声が彼を刺す。

「お前、自分も手作りのチョコレート配ってただろ」
「そういうのはもらったんじゃなくて交換したっていうんだ」
「…モテないからってひがまない。特にマニーはさぁ、もうちょっとフェロモンを出したほうがいいと思うんだよね」
「は?」
「いい人だけど恋愛対象にはちょっとねぇ〜?って絶対女の子たちには言われてるよ。こう、にじみ出る父性?」
「…好き勝手言ってくれるな」

しなを作る仕草に呆れたようだったがそれだけで、マニーは服を着替えにさっさとリビングを出ていった。

「シド。これ、見ろよ」

無言を決めこんでいたディエゴがおもむろに一つ、小箱と何やら紙切れをシドに差し出した。

「ん?なに?メッセージカード?」
「こいつに付いてた。『いつもお世話になってます』と、ハートマーク……ねぇ」
「うぉぉい!このチョコすっげー高いやつ!しかもバレンタイン数量限定商品っっ!!」
「義理だと思うか?」
「…………ファザコンなんじゃないの、この子」
「あいつは気づかないだろうな」
「だね。絶対教えてやんないけど」

* * * * *

シドは山ほど友(義理)チョコをもらいそう、
ディエゴはそういう可愛いことするような間柄の異性はほとんどいなそう、
マニーは義理チョコの中にさりげなく一つか二つ本命チョコが紛れてそう。