エイプリルフールのどさくさに紛れるつもりで悪ノリして書いた小ネタ。
以前ヤンデレ女性キャラに目覚めた際、エリーがヤンデレだったらどうだろう?と試してみたものです。
結果は残念でただ薄暗いです注意。エリーはこんなじゃない…今思うとヤンデレならシルビアの方がそれっぽいな。

* * * * *

熱は塵のように霧散し、波のように押し寄せていた火照りは徐々にシーツへと引いていく。
小さな灯りの下。こちらに背を向け服を着終える彼を、わたしだけが裸のまま取り残された気分で眺めていた。

「…そのままで、いいのに」

要は名残惜しいのだ。このまま朝まで抱き合っていたいとはっきり頼めば、彼はきっとわたしの望む通りにしてくれる。けれどそうしないのはつまらない、ちっぽけな意地のためなどではなくて。 何か言ったかと振り向きかけた背中へ強く抱きついたとき香った、おろしたてのシャツのにおい。大きな壁みたいにわたしの邪魔をしようとする。

「知ってる?わたし、ほとんど病気みたいにマニーを愛してるの」
「…エリー?」

直接顔を見なくとも、彼の困惑は容易く感じ取ることができた。
ベッドから身を乗り出すという不安定な姿勢のわたしをさりげなく支えながら身体を反転させた、シャツに食い込ませた爪をやんわり剥がされた時間、それはほんのちょっとのものだったけれど、それにもたらされた雪崩のような恐怖に、わたしは埋もれそうになる。

「病気みたいになんて、そんな言い方するな。……心配になる」

切なげに囁きわたしを抱き返した腕は相変わらず、本当に驚くほど上手く加減された力でわたしを包む。 なんてじれったい、わたしはもっと強く、肺が潰れてしまうくらいに強く、この腕で抱きしめてもらいたいのに。

「でも。本当のことだもの」
「…私もだよ」
「あなたも、何なの?」
「愛してる」

呟いたのは全く同じ言葉なのに、こうも彼のそれはあたたかく、優しく、うつろなのだ。

「ほとんど、病気みたいに?」
「エリー」

少し怒ったように名を呼ばれ、仕方なく口を噤む。
ああこのひとは今傷ついたんだという確かな感触は悲しくもあり、その傷はわたし自身がつけたのだという手ごたえは、酷薄な甘さでわたしを痺れさせた。

「――ごめんなさい」

落胆に、ほんの一滴滲んだ安堵感。
やはりわたしはこのひとを、それはそれは愛しているのだ。

欲ばりなわたしは、いっそ愚かしいほどに優しく善良で弱虫な彼の背中に暴力的に印を刻む。
降りてくるだろう口づけはじれったく優しくうつろであっても、きっと熱いものだから。