「爆安タイムセール、お買い得品につきお一人様一点限り!なんだよ!」

例によって例のごとく、きっかけを作ったのはシドだった。
なんでも近所に新しいスーパーマーケットができたとか。そのオープン記念セールが今日だという実に所帯じみた情報を、奴はしっかり前々から押さえていたらしい。そんなわけでの冒頭のセリフ。
人数の多い方が有利だという話しは理解できる、しかし大の男が三人並んで休日の昼間からスーパーをうろつくとは、かなりシュールというか情けない姿のように思える。存外体裁を気にするディエゴなど私以上に付いて行くのを嫌がった。
……が、最後には二人がかりで説得する形になり、三人そろって帰路についている。そんなものだ。

「…すごい混みようだったな」

店内は予想以上にごった返していた。中には自分たちのようなタイムセール要員らしい中年男性も多く、彼らもまた女性陣のパワーに当てられたのか一様にぐったりとして、立ち姿に哀愁を漂わせていた。

「でも助かったよ。二人とも見つけやすかった」
「お前を見つけるのが大変だった。ちょろちょろしやがって」
「じゃあ手でも繋いで歩けばよかった?」

不機嫌なディエゴは軽口に付き合わず先へ行く。空いた両手をポケットにつっこんだ足取りは軽い。私も同じく手ぶらだ。大きな袋四つ分の戦利品は、全てシドがぶら下げている。

「うわ、ちょっとディエゴ!早足になんないでよ、すげぇ重いんだからさー!」
「こうなるって想像しなかったのか……?」

ジャンケンして負けた人が荷物持ちしよう。買い物終了後、言い出した当人が見事に負けた。あまりにも筋書き通りで笑えない。飲料のペットボトルや壜だけでも、結構な重さになっているのに。

「だから全部はやめとけって言ったんだ」
「マニー。甘やかすと図に乗るだけだぞ」

袋を取り上げようとした矢先、前のディエゴがそう言った。反射的に手が止まる。

「あぁ!余計なこと言うなよディエゴ!せっかく手伝ってくれようと、」
「してない!!」

確かにすぐ調子に乗るのだこいつは。よろつきながら歩くのを置いて私も足の動きを速める。

「――…あ?うわああぁっ!ちょっと待ってお願い!ストーップ!!」

危機感さえ含んだような制止だった。
驚いて、数メートル後方になったシドを振り向く。

「なんだよ?」
「大変なんだよっ!」
「だから何が!?」
「新しいオマケが!!」

二人で駆け寄ると、示されたのは大手チェーンのファストフード店。さらに出入り口の脇にある透明ケース。中にいくつか人形の見本が飾ってある。

「あれ欲しかったんだよな〜。もう発売してたの知らなかった」
「もしかしなくても…おこさまセットのこと言ってるんだよな」
「うん。ちょっと待っててテイクアウトで買ってくる!マニーは何か要る?」

シドは荷物の重さも忘れたように意気込む。怒るのも呆れるのも面倒になってきた。

「昼、出る前に食べたばかりだろ……いらない」
「オレはもう消化したから。ディエゴはどうする?」

無言かつ無表情、いよいよ機嫌の悪さに磨きがかかっているディエゴに平気で訊ねられる無神経さは羨ましい。空気を読めないのか読まないのか。すいとガラス越しの店内に目をやり、ディエゴはつまらなそうに吐き捨てた。

「ジャンクフードは食わん」

先に帰るという意思表示だろう。シドから袋を一つ奪って私たちに背を向ける。
意外だな。健康志向は人並み以下で、黙っていれば酒のつまみばかりで食いつないでいそうなくせに。ため息をこぼして見たシドは、いつも以上の間抜け面でディエゴの去った方角に目を向けている。

「……なんていうんだっけ。こういうの…。あ、デジャブ?デジャビュ?」

なんでもいいからこっちも早く帰りたい。急かすつもりで荷物を二つ、取り上げてやった。