夕食後、さっそくデザートにするため林檎の皮を剥き始めたシド。彼の手元を覗き込み、珍しくマニーがすんなり感嘆の声を漏らす。

「大したもんだな」

本来なら切り分けたあと皮を剥く方がやり付けているのだが何となく気が向いて、くるくると細長く皮を解いていたところだ。

「そう?マニーはこうやって剥けないの?」
「たまに褒めてやるとそういう…剥けないわけないだろ」
「へー。じゃあやってみてよ」

軽い悪戯心でナイフと二つめの林檎を押し付ける。
――期待に違わず、結果はさんざんなものだった。

「…りんごがものすごく小さくなったんですけど、マニーくん」
「……」
「ぷっ、いや、いくらなんでもこれは…っはは、あははははは!!」

元と比べて四回りほど歪に縮小された果実。ここまで酷いと皮を剥いているのか可食部をそぎ落としているのか、判別できない。大笑いされ屈辱の表情を浮かべるマニーも、異議は唱えず歯噛みしている。

「あははは、は、腹いたい…なぁなぁディエゴー!」
「シド?なに騒いでんだ」
「見てよこれ!マニーが剥いたりんご!」

マニーが黙っているのをいいことに、シドはキッチンカウンター越しにディエゴを呼び寄せ不恰好な林檎を差し出す。

「……元の大きさが気になるところだな」
「うるさい」
「まあまあマニー。ディエゴは?剥けんの?」
「それよりはマシにな。貸してみろ」

そう言ってディエゴが林檎の皮むきに挑戦すること数分。

「――どうだ」
「……まぁ、私よりはマシだけどな」
「オレの方が上手いね」
「なに!?」

自信満々に提示された果実とその表皮を、シドはふふんと鼻で笑った。

「ほら。オレのが細く一回も切れないで、全部の皮を剥けてるもん」

わざわざ得意げに成果を取り出してみせる様子にディエゴは言い返すこともできない。
事実、その通りなのだから。

「君たちはまだまだシド様の足元にも及ばないね、ははは!出直してきなさい!」

調子づきながらシドはまたするすると林檎を裸にしていった。
それを後悔することになるのは、たった三日後だとも知らず。

* * * *

マニーとディエゴが示し合わせたようにそれぞれ(値が張りそうな)果物ナイフと林檎一箱を買ってきたのがその翌日。
シドがバイトで夕方から家を空け、二人とあまり顔を合わせなかったのがその翌日。
……そして三日目。

「やるな、ディエゴ」
「ふ…お前もな」

キッチンを占領し、冗談みたいな会話を素で交わしているマニーとディエゴ。
失念していた。彼らは一見冷めているようにも思えるが、実は共に相当な負けず嫌いなのだった。 元から筋がよかったディエゴは林檎の皮を繊細なリボンみたいにしているし、林檎をぼろぼろにしていたマニーもディエゴほどではないにしろ、かなりスムーズに細長く皮を剥げるようになっている。おそらく上達の度合いは前者以上だ。
たった三日でここまでになるとは。半分純粋に感心し、もう半分でシドは心底呆れていた。

「……大人げないよなぁ」

きっとこっちが完敗宣言をするまで二人の気は済まない。しかもダンボール二箱分の林檎全てをまる裸にした後どう処理するかなんて、彼らはまったく考えてもいないに違いないのだ。
まずはジャムとコンポートかな?せっかくだからアップルパイもマスターしようか、作ったらエリーたちにもおすそ分けして――
頭を悩ませケーキのレシピ集を探しにリビングを出る家庭の主夫に気づかず、おとなげない大人二名は黙々と林檎を剥いていた。